ギリシャ・CHIOS島に入る≪十月十五日≫ ―爾―三時半頃、カフェで仲良くお茶を飲んでいた二人が、事務所に入ってきた。 聖美「またT君、私の悪口言ってたでしょ!」 俺 「・・・・・・。」 聖美「何で又、逢ってしまったのかしら。嫌だわ!」 本当にそう思っているらしい。 話し方から想像するに、少々勝気な娘らしい。 もともと、クレタ島に居たらしく、クレタ島に荷物を置いて小旅行をしているとかで、またクレタ島に戻るのだと言う。 聖美「本当言うと、私も彼女(もう一人の連れ)と一緒に、インドへ行ってみたかったのだけど、荷物をクレタ島に残したままでしょ。取りに帰らなくちゃいけないのよね。」 ギリシャまで来ている女は多いけど、トルコで見かけた女の子は彼女達二人きりだった様に思う。 もちろん、パック旅行で来ている女は別だが。 ネパールを発った時からイランまでは、ただの一人もお目にかかれなかった。 話によると、インドまで来ていたカップルのうち、女の子の方が病死したと言う噂を聞いた事がある。 とにかく、まだまだ日本人女性は少ない存在である事に間違いはない。 そして彼女は、その中でも貴重な存在なのかも知れない。 二人で昼食を取ってきたらしく、ミカンを買ってきてくれたではないか。 聖美「蜜柑食べない?」 俺 「ええ・・俺にくれるの。ありがとう!」 小ぶりの蜜柑だ。 俺 「酸っぱいな!」 聖美「あらッ、酸っぱい?これはどう?」 そういうと、自分が食べていた蜜柑の一房を取って、目の前に差し出してきた。 無邪気な女だ。 パスポートを見て分った事だが、彼女只今25歳。 彼氏を日本に置いてきているから、日本の男なんて眼中に無いのよという感じだ。 T君「長く離れていると、分らないからな・・・・男は。」 聖美「あらッ、そういうものなの。でも大丈夫よ!」 俺 「・・・・・・・。」 聖美「とにかく、今年中には帰るわ!」 * 4:00ちょっと前に全員、カスタムへ移動。 彼女の大きなカバン、何処でどう話をつけてきたのか、トルコのおっさんが現れて、運んでいくではないか。 聖美「無料なのよ。」 俺 「・・・・・。」 聖美「お金ないのよって言っても、良いから良いからって言うんですもの。」 たいした女だ。 カスタムでは、簡単な荷物検査とパスポートとチケットのチェックだけで、荷物を持って外へ出る。 出るとすぐそこがフェリー乗り場だ。 三隻ある中の二番目に大きなフェリーではあるものの、上手く詰め込んでも車は三台しか乗せられない。 小さなフェリーボートなのだ。 TAXは5.0TL(≒110円)。 三台の車を詰め込むと、次は我々の番。 全員乗り込むと、フェリーはゆっくりと、エーゲ海を滑り出した。 船内で今度は、ギリシャへの入国用紙が回される。 その場で記入。 今日は素晴らしい空と海。 海から見るチェスメの町もなかなか良いもんだ。 左サイドに、宿泊してエーゲ海の怒りをかった高級ホテルが見える。 右側には、夢だった古城での居眠りを果たした城跡が見える。 本当に小さな漁村だ。 こんな小さな漁村が、ギリシャとの戦争の砦だったとは。 風が強くなってきた。 大きなCHIOS島が正面に大きく見えてきた。 静かなエーゲ海とは言え、陸から離れると少し揺れ始めてきたようだ。 風のせいか、船が小さいせいか、船酔いしそうだ。 T君「俺を写してくれよ。」 聖美「あらっ、勿体無いわよ!フィルムが。」 T君「そんな事言わずにさ。」 相変わらず、T君は彼女にやり込められている。 だんだんと日が落ちて来る。 夕日がエーゲ海に反射して眩しい。 夢にみたエーゲ海を船で揺られている。 波の音が聞こえてくる。 聖美「昨日の嵐はすごかったわね。」 俺 「・・・・・・・・。」 聖美「地元の人もビックリしてたから・・・・・この季節では、始めてだったらしいわよ。」 広いエーゲ海を小さな船が白い筋を引いて走る。 何ともいえぬ快感が過ぎる。 あれだけ近くに見えていたCHIOS島まで、50分かかると言う。 船は途中、トルコの国旗を降ろし始めた。 変わりに黄色い旗を掲げた。 T君は彼女を追いまわして、船の中を歩き回っている。 ギリシャに入った。 CHIOS島が目の前に見えてきた。 数学で習ったあの記号のようなギリシャ文字が、目に飛び込んでくる。 * フェリーが横付けされる。 すぐ前の建物がカスタムらしく、車も人もその建物に誘導される。 ギリシャ文字が目に付く以外、トルコと違った様子を見つけることが出来ない。 このCHIOS島が、ギリシャ入国のはじめての地になろうとは、イスタンブールに入ったときでさえ分らなかった。 あの時でさえ、すんなり陸伝いでギリシャに入るものだと思っていたのだ。 フェリーを下りる時、パスポートを渡してカスタムに入る。 建物の中は、倉庫のようにガランとしていて、荷物検査をする為のカウンターが備え付けられているだけの、質素な佇まいを見せている。 そのカウンターの上に、荷物を置いて暫く待機させられるようだ。 聖美「今晩出られるかしら。」 T君「さあー!」 聖美「さあ・・・!」 聖美「チケットは何処で買ったら良いのかしら?」 T君「その辺にあるんじゃあないの!」 どうやら二人共今夜中に、ギリシャ本土であるピレウス港へ向かうつもりのようだ。 話によると、(一日一便)週に何便か、午後八時にCHIOS島を出発する船が有るとのことだったが、まだ確かめるまでには至っていない。 暫くすると、パスポートが返され、その後すぐ荷物検査が行なわれた。 パスポートを受け取ってからは、テキパキと事務処理は行われ、割と簡単に入国手続きを終了する事が出来た。 ギリシャに入った。 目的地のギリシャに今入った。 仲間とは違うルートでギリシャに入った。 計画にはなかった、CHIOS島。 海岸線が200メートルほど真っ直ぐ延びている。 その海岸線に沿って、四五階建ての建物がぎっしりと建ち並んでいる。 車も人通りも多く、相変わらず外に出されたテーブルに人が群れている。 船の乗客たちを迎えに来ている人、これから船に乗り込もうとしている人、船を乗り降りする人達や船を眺めに来る人達でムンムンしている。 このカスタムから四五軒隣が、フェリーの切符売り場のようだ。 検査が終ると、二人は早速ピレウスまでのチケットを購入しに出かけると言う。 二人とは切符売り場の前で別れ、今夜の宿泊場所を探しに出かけることにしよう。 俺 「じゃあ、お元気で!」 聖美「あらっ!今夜ピレウスまで行かないの?」 俺 「ええっ!せっかくだから少しこの島でゆっくりとして行こうと思って!」 聖美「そう、残念ね!良い旅を!」 俺 「君達も!」 ジャンル別一覧
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